遺言執行者の依頼による複数の相続人への相続登記の解決事例
状況
① Aの父Bが死亡した。
② Bの相続人は子であるAとCのみであった。
③ Bは生前公正証書による遺言を作成しており、遺言執行者としてBを指定していた。
④ AはBの遺言に記載された内容を実現することを希望しご来所の上、登記申請に係る事務を当事務所にご依頼してくださった。
司法書士の提案&お手伝い
① お客様はすでにご自身の「戸籍・住民票」や被「相続人の除籍謄本・住民票の除票、不動産の評価証明書」を収集してくださっていた。
そのため、こちらで戸籍等の手続き上必要となる書類を収集する必要がないため、お時間の節約につながる旨ご説明させて頂いた。
② 登記の手続きには、遺言執行者に選任されている方の委任状への押印のみで登記申請のお手伝いをすることができることをご説明した。
〈相続法改正〉遺言執行者の役割について
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言の実現に向けて必要な手続きを行う人の事を指します。遺言ではこのような執行者を指定することが可能です。
執行者には誰でも指定する事が出来ますが、手続きには法律的な知識を必要とすることも多いため司法書士などの専門家に依頼することが通常です。
遺言の執行手順
1)遺言者の財産の必要書類の準備を行い、財産目録を作成する
土地や建物の所有を証明する「登記簿」や「権利書」などを揃えた上で、財産目録を作成し、相続人に提示します。
2)遺産の分割方法を提示し、遺産の分配を実行する
遺言書の内容に沿って、遺産の相続割合や分割方法を提示し、分配します。
この際に、相続登記(不動産の所有権移転登記)、金融機関の解約手続き、債権の整理などを行う必要があります。
4)遺贈受遺者に遺産を引き渡す
法定相続人以外の財産を分配したいという希望が遺言の中にある場合には、遺言にて指定されている割合・分配方法に従い、受遺者に財産を分配する必要があります。
この際に遺言執行者が指定されていない場合、他の相続人全員と協議を行い、手続きを進める必要がありますが、
遺言執行者がいる場合は、執行者と受遺者のみで相続を終えることが出来るため他の相続人と作業を進める必要はなくなります。
5)認知の届出をする
認知とは婚姻していない男女の子について、その父または母が法律上の親子関係を認めることを指します。
認知は生前に行うことも可能ですが、事情があり生前に認知を行うことが出来ない場合は、遺言にて行うことになります。
遺言による認知が行われた場合は、遺言執行者は届け出を行う必要が発生します。
6)相続人廃除、廃除の取り消しを家庭裁判所に申し立てる
遺言執行者はこのような職務をこなしていかなければなりません。
調査、執行内容は相続人に報告していく義務がありますが、執行がすむまではすべての財産の持ち出しを差し止める権限を持っています。
遺言執行者が遺言執行の職務を終了したとき、相続人はそれに応じた報酬を遺言執行者に支払います。その報酬額は遺言でも指定できますが、家庭裁判所で定めることもできます。
遺言執行者の権限変更
これまでは、遺言の内容に「どの財産を誰に相続させる」旨が明記されている場合は遺言執行者の職務が必要とならないと判断されていましたが、令和元年7月1日施行の民法(相続法)改正により、「相続させる」旨の遺言についても、法定相続分を超える相続分については、遺言執行者に対抗要件の登記申請等に必要な行為をする権限がある旨が明文化されました。
遺言執行者による相続登記申請
上記により、現在では遺言執行者により相続登記申請ができる、つまりは登記申請の委任状に署名押印するのが遺言執行者だけで完結できるようになりました。
ただし、効果が適用されるのは、和元年7月1日以降に作成された遺言書のみとなりますので、それ以前に作成された遺言における相続登記については、登記申請の委任状は「相続させる」旨の遺言によって取得する相続人の方の署名押印が必要となります。
結果
① お客様ご自身で戸籍の収集を完了してくださっていたため、本来戸籍の収集に要する時間を大幅に削減することができ、スムーズかつスピーディーに登記申請をすることができた。
② 遺言執行者であるお客様の委任状への押印のみで登記ができるように準備をすることで、お客様の負担を大幅に軽減することができた。
③ 被相続人の有していた生前のご意思をしっかりと実現することができ、相続人の方にも喜んでいただくことができた。
ポイント
本件公正証書による遺言は、相続法が改正された後(令和元年7月1日施行)に作成されたものであった。
この改正では遺言執行者について、「遺言執行者は相続人の代理人とみなす(旧民法1015条)」との規定から、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(改正後民法1012条1項。以下、単に「民法」という。)」との規定に改められた。
加えて、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる(民法1014条2項)。」として、その権限が明確化された(一方で、相続人への任務開始通知義務(民法1007条2項)も課されることとなっている)。
例えば、遺言者(被相続人)が遺言の中において「土地・建物をAに相続させる」と記載していた場合、実際にその手続きをすることができる者がいなければ、遺言の内容は遺言者の意思に従った形で実現されずに終わってしまう(遺言制度の趣旨が没却されるということを意味する)。
このような場合に、遺言執行者が登記手続きを容易に行うことができるように遺言執行者の権限が明確化されたのである。
しかしながら、実際には登記手続きには専門的な知識が要求される場合も多く、なかなか遺言執行者に選任された方が一人で登記手続きまでを行うことは難しい。
当事務所は、遺言による登記についての実績が多く、迅速に登記手続きを行うことができます。
そのため、当事務所へ駆け込んでいただければ、遺言者様の生前のご意思を実現するお手伝いをさせていただきます。
この記事を担当した司法書士
司法書士法人・行政書士法人 エムコミュー
代表
小野 圭太
- 保有資格
司法書士 行政書士 民事信託士
- 専門分野
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相続・遺言・民事信託・不動産売買
- 経歴
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司法書士法人・行政書士法人エムコミューの代表を勤める。 平成25年12月に「司法書士法人・行政書士法人エムコミュー」を開業。相談者の立場に立って考える姿勢で、「ご家族の絆を一番に!」を事務所の理念 にしており、お客様の家族まで幸せを考えた提案をモットーにしている。また、相続の相談件数1200件以上の経験から相談者からの信頼も厚い。