夫婦間の居住用不動産の贈与は税金がかからない?
1.配偶者控除の特例の概要
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、『夫から妻へ』、『妻から夫へ』いわゆる夫婦間での居住用不動産の購入、又は、その建築資金を贈与したときは、2000万円までは贈与税がかからないという特例です。
それが、贈与税の配偶者控除です。
さらに、基礎控除額の110万円を加えれば、2110万円までは税金を払わずに配偶者に贈与可能です。
※贈与税の配偶者控除と、相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)は間違いやすい論点ですので気をつけましょう。
<例>マイホームの評価額が2,000万円以内の場合
マイホームの評価額(2,000万円以内)-基礎控除110万円-2,000万円=0(贈与税は非課税)
<例>マイホームの評価額が2,000万円を超える場合
贈与する居住用不動産は、「1. 土地と家屋の両方 2. 家屋だけ 3. 土地だけ」の3通りあります。もし、土地だけの贈与をする場合、その土地の評価額が2,110万円を超えそうなときは、持分を贈与していきます。わざわざ分筆して贈与する必要はありません。
例えば、土地の評価額が1億円で、贈与税をゼロで贈与したいときは、2,110万円/1億円=0.211となりますので、持分1,000分の211を贈与し夫婦共有財産にします。
※ただしこの控除を受けるためには、下記の要件を満たさなければいけません。
2.特例を受けるための適用要件
この特例を利用するためには、次の要件のすべてを満たす必要があります。
①贈与者(贈与する人)は、婚姻の届出をした日から贈与を受けた日までの期間が 20 年以上の配偶者であること。
②贈与財産は、国内にある居住用不動産又は国内にある居住用不動産の取得に充てるための金銭であること。
③上記②の居住用不動産に現在居住している又は贈与を受けた年の翌年3月 15 日までに居住する見込みであり、かつ、今後引き続きこの居住用不動産に居住する予定であること。
④過去に今回の贈与者からの贈与について、この特例の適用を受けたことがないこと。
※配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。
3.適用を受けるための手続
次の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。
①受贈者(贈与を受けた方)の戸籍の謄本又は抄本
居住用不動産又は金銭の贈与を受けた日から 10 日を経過した日以後に作成されたもの。
②受贈者(贈与を受けた方)の戸籍の附票の写し
居住用不動産又は金銭の贈与を受けた日から 10 日を経過した日以後に作成されたもの。
③控除の対象となった居住用不動産に関する登記事項証明書
④受贈者の住民票の写し
控除の対象となった居住用不動産を居住の用に供した日以後に作成されたもの。
※上記②の戸籍の附票の写しに記載されている受贈者の住所が、贈与税の配偶者控除の特例の対象となった居住用不動産の所在場所である場合には、住民票の写しを提出する必要はありません。
※上記の書類のほかに、金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、その居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)が必要となります。
4.夫婦間の居住用不動産の贈与特例の疑問
贈与税の配偶者控除は期限後に申告することができるのか?
例えば去年、妻に対して自宅を贈与したため、本年3月15日までに贈与税の申告と納付をしました。その際に『贈与税の配偶者控除』の特例を利用するための手続きをしなかった場合に、配偶者控除を受けることができるでしょうか?
結論から申し上げますと、『更正の請求』という手続きをすることにより特例を受けることが可能となります。
『更正の請求』とは簡単に説明すれば、昔に戻って修正することです。
※更正の請求ができる期間は、改正後は原則5年(贈与税は6年)ですので、ご注意ください。
贈与税の配偶者控除は離婚していても利用できるのか?
離婚日の前日までの日付で贈与が済んでいれば、2000万円の配偶者控除は利用できます。
贈与の日付は、契約書や登記簿上の贈与日で証明することとなります。
5.特例適用のメリット
暦年課税の非課税枠110万円と併用できる
贈与税は年間110万円まではかかりません。110万円と配偶者控除はダブルで使えますので、あわせて2,110万円までは贈与税がかかりません。
相続税対策
贈与税の配偶者控除を適用した贈与は、相続開始前3年以内の生前贈与加算の対象となりません。たとえ、贈与をした年に、相続開始となってしまった場合でも、特例の適用が認められることになります。
譲渡税対策
この特例を適用して、居住用財産を夫婦の共有財産にしておくと、将来自宅を売却する際に、「居住用財産の売却益に対する3,000万円の特別控除という特例を夫婦で適用することができるため、合計で6,000万の売却益まで税金がかからなくなります。3,000万円の特別控除の特例は、土地の場合、家屋とともに譲渡する土地に限られるため、居住用不動産を配偶者に贈与する時には、家屋部分も贈与しておくことが必要になります。
6.特例適用のデメリット
贈与税以外の費用がかかる
贈与税は2,110万円まではかかりませんが、贈与をしたことによって以下の費用がかかります。
①不動産の登記費用
不動産の所有者が変わるので、法務局にそのことを届け出る必要があります。この手続きを司法書士にお願いすると費用がかかります。
②登録免許税
上記の登記をする際に納める登録免許税は固定資産税評価額の2%です。
③不動産取得税
固定資産取得税は固定資産税評価額の3%です。
同じ夫婦間で使えるのは一生に一回
この配偶者控除は同じ配偶者からは一生に一回しかつかえません。2,000万円の非課税枠を翌年以降に繰り越すこともできません。つまり、今年は1,000万円だけ非課税にして、来年は残った1,000万円を非課税にすることはできません。
せっかく夫が妻のために不動産を購入するなどの贈与をしても、妻が先に死亡してしまったらメリットがありません。不動産の名義の書き換え費用がかかる上に贈与した不動産が夫のもとに戻るので相続財産が増えてしまいます。
配偶者控除の特例はギリギリで行うの正解
夫婦のどちらが先に死亡するかは誰にもわからないことなので、あまり早くから行わない方がいいといえます。
また、相続税の課税額がそれほど多くない場合は相続税を納める方が安く済むというケースもあります。それは不動産の名義変更の費用(登録免許税と不動産取得税)がかかるからです。相続税とそれらの費用を天秤にかけて検討する必要があります。
この記事を担当した司法書士
司法書士法人・行政書士法人 エムコミュー
代表
小野 圭太
- 保有資格
司法書士 行政書士 民事信託士
- 専門分野
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相続・遺言・民事信託・不動産売買
- 経歴
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司法書士法人・行政書士法人エムコミューの代表を勤める。 平成25年12月に「司法書士法人・行政書士法人エムコミュー」を開業。相談者の立場に立って考える姿勢で、「ご家族の絆を一番に!」を事務所の理念 にしており、お客様の家族まで幸せを考えた提案をモットーにしている。また、相続の相談件数1200件以上の経験から相談者からの信頼も厚い。